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自然

正助ふるさと村
新立山のチョウ

福岡県宗像市の南東部、宮若市(旧宮田町側)との境に位置する新立山は標高326mで、市街地にも近いことから、好天の日には多くの市民がハイキングに訪れる人気スポットで、山頂からは北は響灘・玄界灘、南は六ヵ岳や福智山、西は西山・犬鳴山と、四方に広がる変化に富んだ風景を楽しむことができます。

 新立山の山麓に位置する武丸地区は、江戸時代に幕府が編纂した『孝義録』で紹介された孝子正助さん(1671~1757)が生涯を過ごしたことで知られています。正助さんは寛文11年(1671)、武丸村の土師上(はじかみ)の生まれで、両親は小さな商売や他家の手伝いをして生計を立てていたのですがやがて行き詰まり、母と幼い正助さんは奉公に出ることになります。正助さんは朝早くから夜遅くまで奉公に励んで、そこで得る僅かな給金を少しずつ貯め、21歳の時ついに狭いながらも土地を買って家を建て、家族一緒の暮らしを取り戻すことができました。その後も変わることなく仕事に精を出し、親孝行に励む正助さんは次第に世の評判となり、39歳の時には宗像郡から「米12俵および田1反7畝」を授与され、さらに58歳の時には、黒田藩主から「孝子」として福岡城に招かれ、「地子免除」の上「武丸」姓を名乗ることを許されるという栄誉を授かるまでになりました。没後、各地の「孝行」の模範事例の紹介を幕府から求められた黒田藩が、この正助さんの事績を、藩を代表する「孝」の実践事例として報告したため、正助さんの話は儒教道徳確立のための啓蒙書『孝義録』に掲載され、全国に知られるようになりました。

 1951年、正助さんを記念して正助廟が当地に建てられ、さらに1992年、「正助」を冠した自然との触れ合いを目的とした施設「正助ふるさと村」が出来、市民憩いの場として広く親しまれています。そこには貸農園、カントリーショップ「ニンジン」、バイキング食堂「正助茶屋」、物産販売店「もやいの家」、「正助資料館」などが設けられ、そば打ちや芋掘り等の体験イベントが開かれることもあります。この里山風景が色濃く残る正助ふるさと村一帯およびそこから延びる新立山登山道と新立山では四季を通して種々の蝶が観察できます。関心の深い蝶について季節を追って紹介しましょう。

2月のチョウ

春まであと1歩という2月、貸農園の近くの菜の花畑で花が咲き、モンシロチョウが訪れます。

3月のチョウ

3月に入ると、春の匂いが微かに漂ってきます。
この時期に、他のチョウに先駆けて羽化したルリシジミが路傍で見られます。
オスの翅表のブルーがとても綺麗です。

4月のチョウ

本格的な春の訪れとともに種々のチョウが現れます。
先ず目に付くのはモンキチョウです。
黄色がオス、乳白色がメスです。
ベニシジミが路傍の花で求愛中です
ツマグロヒョウモンが出始めます。
このチョウは元々暖地性のチョウでしたが、幼虫が食べる植物(食草と言います)がスミレ類なら何でもよいので、庭にパンジーを植えることが広まったことにより、生息域を北へ延ばしました。
上はオスですが、メスは前の翅の先端が黒くなります。
メスの前翅の端(ツマ)が黒いので、
ツマ(端)グロ(黒)ヒョウモン(豹紋)と名付けられました。
4月中旬~5月上旬、ツマキチョウが現れます。
1年に1回、この時期に見られる春の女神と呼んでもよい可憐なチョウです。

5月のチョウ

チョウの活動が活発になるシーズンです。
新立山登山道脇でイシガケチョウが見られます。
更に先へ進んでいくと、右側に池があります。その堰堤の斜面にアザミが咲き、それに種々の大型アゲハ類が飛来します。先ずアオスジアゲハを紹介しましょう。
カラスアゲハも飛来します。
カラス=黒のイメージからほど遠い美しい翅を持ちます
ナガサキアゲハ。大型アゲハチョウ類のなかで唯一尾状突起(後翅の後端にあるツバメのような尾)を持ちません。

6月のチョウ

貸農園周辺のクリ(栽培種)の花が咲きます。
これにメスグロヒョウモン(2014年福岡県準絶滅危惧)が飛来し、
時々クリの花で吸蜜します。下の写真はオスです。
7月になると、姿を消します。
暑い夏は、涼しい木の葉の裏側に隠れて、9月末まで夏眠します。

7月のチョウ

ユリが咲きます。
気温が高くなってもアゲハチョウ類の活動に陰りはありません。活発に飛び回り、ユリの花に飛来して蜜を吸ってエネルギーを補給します。オニユリに飛来したのはキアゲハです。

8月のチョウ

新立山登山道を行くと、ササの周辺で小さいシジミチョウがチラチラ飛び回るのに気づきます。ササの葉に止まったのでよく見ると、翅裏の模様が、白い下地に黒の碁石を散りばめたようです。それでゴイシシジミと言います。このチョウの幼虫はササにつくアブラムシを食べる肉食性です。また成虫はアブラムシが出す液を吸います。
出発点の正助ふるさと村大駐車場から40分ほどで新立山山頂に着きます。山頂の一段下の広場の脇にクヌギ林があります。
中には樹液をだしているクヌギがあります。それにゴマダラチョウが来ます。
運がよければ、ミヤマクワガタも見られます。
また、スミナガシが樹液を吸いにやって来ます。
2017年8月、大駐車場の上の遊歩道でリュウキュウムラサキが見つかりました。
これは沖縄辺りから飛来した迷蝶と呼ばれるもので、宗像産ではありません。時々、このような迷蝶が見つかります。特に大島で見つかる頻度が高いです。台風で運ばれるという説があります。

9月のチョウ

9月に入ると時々涼しさを感じるようになり、ヒガンバナが咲き始めます。
これにいろいろのチョウが訪れます。カラスアゲハがやって来ました。
ヒガンバナで吸蜜しているナガサキアゲハのメス(左端)に2頭のオスが求愛をしている光景です。
アゲハも訪れます。
大駐車所の端の花壇にキバナコスモスが植えられています。キバナコスモスはチョウの大好物です。丁度キアゲハが飛来したところを撮りました。このキアゲハは上のアゲハに似ていますが、両者の違いが分かりますか?翅の模様を見比べると分かると思います。
花壇にはキバナコスモスの外に千日紅も植えてあり、これにも多くのチョウが集まります。この時期に多く見られるのはイチモンジセセリです。4つの白い点が一列に並んでいます。これよりイチモンジ(一文字)セセリと名付けられました。一見、ガのように見えますが紛れもないチョウです。

10月のチョウ

花壇の花には相変わらず多くのチョウが訪れています。アカタテハが千日紅にやってきました。このチョウは成虫で冬越しをするので、たっぷり栄養を取り込みます。
毎年10月にちょっと珍しいチョウが花壇に飛来します。南方系のタテハモドキです。
50年前には福岡県には生息しなかったので、鹿児島県、それも南端の佐多岬辺りまで行かなければ見られませんでした。その後環境に順応しながら北上して来たのでしょう。今では宗像地区に定着しました。
夏眠していたメスグロヒョウモン(メス)が目覚めて花壇にやってきます。6月のチョウとして紹介したメスグロヒョウモンのオスとは別種ではないかと思うほど雌雄の翅の模様の相違が大きいです。メス(雌)グロ(黒)ヒョウモン(豹紋)と名付けられた由縁がここにあります。

11月のチョウ

正助ふるさと村本部のもやいの家の下の道を新立山へ向かってしばらく行くと、左手に福智神社の案内があります。ここにソテツが植えられており、その周囲でクロマダラソテツシジミが見つかります。
このチョウの幼虫はソテツの堅い葉を食べます。元はフィリピン原産だったのが2007年頃から九州に侵入し、今では福岡県でも見られるようになりました。しかし、越冬できないので、毎年南西諸島から世代交代をしながら北上し、9月頃に宗像に到達します。その後1回程度世代交代をするので、11月頃まで見られます。毎年北上するとは限りません。冷夏の年には北上しないので、宗像地区では見ることができません。

写真集「正助ふるさと村・新立山のチョウ」

正助ふるさと村・新立山に生息する57種のチョウが、写真集「正助ふるさと村・新立山のチョウ」(むなかた蝶類研究会編、B5版64頁、1,600円(送料込み))に掲載されています。その一部を紹介します。

問い合わせ先

むなかた蝶類研究会 nishi.tetsuo@sct.bbiq.jp
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